『ART THE BACK HORN』

着々とご購入された皆様のお手元に届いている、THE BACK HORN初の画集『ART THE BACK HORN』。企画作成から発送まで、約半年間の制作過程をまとめておきたいと思う。

バックホーンの画集の企画については遡ること約10年前。まだ音楽雑誌の編集部にいた頃に一度、企画提案したことがある。「マニアックヘブン」のギャラリーで原画の数々を見るにつけ、その迫力や力強さ、繊細さに感動をし、これを手元で見ることができればと思ったからだ。その時には時期尚早ということで実現しなかったが、当時の企画を覚えていてくださり、有難いことに今回お声掛けいただいた。

まず初めに取り掛かったのは、本の要となるアートディレクターの選定。先に書いた力強さや繊細さをダーク寄りに表現してくれる方がいいなと考えていた。そこで声を掛けたのは、DIR EN GREYやBABYMETALのアートワークなどを数多く手掛けるROKUSHIKIの依田耕治さん。聞けば“昔からバックホーンが好きでよく聴いている”とのこと。この時点で間違いなくカッコいいものになると確信した。

次にメンバーも参加する最初のリモート会議のために、本の仕様などベースになる部分の提案書を作成する。本のサイズはだいたい決めていた。愛蔵していた、忌野清志郎さん初の作品集『忌野清志郎の世界』や10年前の「シュルレアリスム展」の図録と同じ、A4正寸より左右が少し長いA4変形。横長の絵を少しでも大きく見せるためだ。どうしても外せないと思ったのは、この画集のためだけの付加価値をつけること。初の画集とはいえ、ほとんどがジャケットやグッズ、「マニアックヘブン」のギャラリーなどでファンの目に触れているものである。この画集を買ってくれる方に向けて、特別な何かが必要だと思った。そこで、かつて描いたそれぞれの絵に、新たに言葉をつけてもらうことにした。ヒントになったのは、20世紀の画家パウル・クレーの絵に谷川俊太郎氏が詩をつけることで、新たな命を吹き込んだ「クレーの絵本」。メンバー4人の“今”の言葉をつけることで、より絵が活きるだろうと思った。

リモート会議を経て、本格的に制作が始まった。リスト作成のため、8月の上旬に保管されている倉庫に向かい、すべての絵の写真を撮った。これまで彼らが描き溜めてきた数多の作品を、どう編集していくか。編集の方向性を決めるのに一番時間がかかった。最初のリモート会議で「年代順に並べない」「ジャケットやTシャツ画といったカテゴライズをしない」という、編集についてのリクエストがあったからだ。絵そのものにパワーがあることは承知しているが、ただランダムに並べるよりももっと印象強く見せられる方法があるのではないか……。そもそも何故彼らは「ジャケットやTシャツ画といったカテゴライズ」をしたくなかったのか。毎日絵を眺めながら考えた。考えた末に見えてきたのは、こういうことだった。“ジャケット”や“Tシャツ画”というカテゴライズにすると、“商品としての絵”という印象が強くなる。きっと、それぞれを純粋な“一枚の絵”として見てほしいのではないか。そこで、絵の内容でテーマ分けをすることにした。大きく“心象風景”“抽象画”“動物画”“人及び人非ざるもの”に分けることができた。巻頭には代表的な絵を並べ、それに言葉をつけてもらうことにした。さらにその前に「ザ・バックホーンの世界」とタイトルが付いた絵を置いた。ここから広がるバックホーンの世界を楽しんでもらえるように。

編集の方向性が決まり、掲載する絵があらかた決まったら、全ての絵をデータ化するためにスキャンに出す。原画の色味を忠実に。ここも画集作りには重要なポイント。とても丁寧な作業をしていただいた。そしてスキャンデータがあがってきたら、表紙の作成に入る。『ART THE BACK HORN』のタイトルはメンバーがつけてくれた。表紙にはたくさんの作品を入れたいという要望を汲んで、アートディレクターの依田さんがコラージュ案を出してくれた。そしてあのインパクトのある表紙デザインが出来上がった。

中面はデザイナーさんと二人三脚で作り進め、最終的に150点を超える絵を掲載することができた。4人4様の絵のタッチがあって、それぞれに趣深い。カテゴライズについての私の解釈が合っていたのかどうかは分からないが、見応えのある面白いものに仕上がったのではないかと思っている。

最後の仕上げはメンバーによるシリアルナンバーの記入。製本が終わって、シュリンクをかけるための工場にみんなで出向いた。編集者になって25年以上経つが、シュリンク包装の工場を訪れたのは初めての経験だった。一冊一冊検本しながら、数字を間違わないように慎重にナンバリングしていくメンバーを見守った。

かくして約10年越しの想いが詰まった画集『ART THE BACK HORN』が完成した。ツアー中にも関わらず、最初から最後まで携わってくれたメンバーの皆様と、スムーズに制作できるように細やかに対応してくださった事務所スタッフの皆様、ROKUSHIKIさんはじめ関わってくださった方々に感謝と敬意を。そして手にしてくださったファンの皆様が、この本を通して奥深いバックホーンの世界に今一度浸ってくださっていれば幸いに思う。